向こうから漂ってくる肉の焼ける匂いが食欲をそそる、皆も気持ちは同じようで自然にそっちの方にぞろぞろと行く。
大勢の参加者がいる中での試食会なので、メインディッシュよりオードブルが中心となっているが、いちおうサイコロステーキがソース別に並べられていた。
背後からリーマンの声が聞こえてきた。
「出来れば大きなステーキをご馳走させたかったのですが、いかんせん大勢の参加者がいる試食会のようなものでして」
百合さんが健気に応える
「あら真二さん、こんにちは。今日は招待してくださって、ありがとうございます。肉を噛みきるのが苦手なんですよ、だから私はサイコロステーキのほうが寧ろ良かったほどですよ」
「そうなんすよ、一口サイズで色んなソースの味を堪能出来るからお得感があるんですよね~」
オバサンが突っ込む
「霧人くん、どっちにしろ無料なんだから、お得感満載でしょう、なんだか私、明日の夕飯にサイコロステーキを作りたくなってきたわ。ネギ塩でも載せようかしら」
ビーフステーキだけではなく、チキンステーキもあるので手が伸びる。
「美味しそうですね、私もサイコロステーキにチャレンジしようかな、大きいのを作るよりは簡単そうだし」
「月乃ちゃん、料理出来るんだ~、いいな~」
ギャルが羨ましそうにいう
「美由ちゃんは、お料理とかしないの?」
チビ女が聞き返す
「ぜーん、ぜんっした事ない。でも将来嫁いだことを考えたら出来るようになりたいなー」
嫁ぐ、それはもしかして相手がいるのか?
「料理の出来る旦那を捕まえれば良いじゃない、うちの旦那も結構、料理上手いわよ」
トマトソース、ポン酢なども試食したが、個人的にはガーリック風が一番好みであった。
「招待しておいて、お話がなかなか出来なくて、すみません。取引先の方々と打ち合わせすることが沢山ありまして。それでは、ごゆっくりしていってください」
と言ったと思うとリーマンは颯爽と人混みの中に消えていった。